Bさんにお金を貸すのだけど「もう時効だから払わない」といわれないようにしたい。
契約書に「Bは時効を主張できないものとする」と書いておけば大丈夫?
そのような契約をしても、法律上、時効の主張を防ぐことはできません。
民商法の改正により、時効制度が新しくなりましたので、ご説明します。
要するにこういうコト
契約で時効の利益をあらかじめ放棄させることはできません(民法146条)から、時効の完成を防ぐには、時効の完成猶予や更新といった法的措置をとる必要があります。
※旧民法が適用される場合には、時効の中断措置をとる必要があります。
債権の消滅時効期間は、権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年(生命・身体傷害は20年)です(民法166条1項各号、167条)。
※旧民法が適用される場合には、権利を行使できる時から10年(商事債権は5年)です。
不法行為債権など特別な時効期間が適用されるものもあります(民法724条、724条の2参照)。
※旧民法には、さらに短期消滅時効という特別な時効期間が存在します。
訴えを起こさずに、口頭や書面で請求するだけだと、時効が完成してしまう場合がありますので、注意が必要です(民法150条1項)。
そもそも時効って何?
Aさんは、返済期限がきたのに、そこから5年すぎてもBさんからお金を回収しようとしません。
この場合、「Aさんには回収するつもりがないのだろうし、Bさんもそう思っているだろうから、Aさんの権利は消滅させてしまおう」と法律は考えます(民法166条1項2号)。ですので、Bさんは、Aさんに、「返済期限から5年経ちましたので、消滅時効を主張します。もう私に請求してこないでください。」と主張することができ、これによって、Aさんの権利は消滅します(民法145条)。
返済期限から3年目に、Bさんが、Aさんに、「ちょっと支払が厳しいので、もう少しまってください。」と言っていたとします。
この場合、Aさんは、お金を回収するつもりでしたが、Bさんの頼みをきいて、仕方なく2年以上訴えを起こしませんでした。Bさんは支払うそぶりを見せたのですから、Aさんから後で請求されても仕方がないはずです。
法律はこのように考え、消滅時効期間をリセットします。BさんがAさんの権利を消すには、新しい支払期限から、さらに5年経過する必要があります(民法152条1項)。
時効の主張をさせないような契約をすればよいのでは?
民法は、自由な取引を尊重していますから、本来どのような契約も自由にできます。
ただし、絶対に守らないといけない特別なルール(公序良俗(民法90条)や強行法規(民法91条))に反する契約はできません。
お金を借りる側は、基本的には弱い立場で、貸主が定めた契約を拒むことはできませんから、両者が対等な立場になるよう、時効を否定したり、時効の期間を延ばしたり、完成猶予・停止の事由を増やしたりする契約は、無効と解釈されています(民法146条、東京地判平成5年4月13日参照)。
じゃあ、具体的にはどうしたらいい?
今まで進んできた時効の期間を一度リセットする方法として、
①Bさんを訴えるなどしてAさんの債権を確定させる
(民法147条1項1号・2項、民事訴訟法147条)
②Bさんに「債務があることを認めます」といった念書を書いてもらう
(民法152条1項)
ことが考えられます。
新しい判決の紹介①(最三小判令和2年12月15日)
Bさんが、Aさんから、平成16年に100万円を、平成17年に200万円を、平成18年に300万円をそれぞれ借りているとします。Bさんが、どの貸金に対する返済なのか明らかにしないままAさんに50万円を返した場合、3つの貸金のうち、どの貸金についての時効がリセットされるのでしょうか。
裁判所は、原則として3つの貸金すべてについてリセットされると判断しました。
Bさんは通常、Bさんは3つの借金について知りながら返済していると考えられますので、3つの借金をすべて認めたものとして、3つの借金に関する時効がすべてリセットされます。
新しい判決の紹介②(東京地判令和2年9月11日)
元金債務の消滅時効の期間がリセットされた場合、これに対する遅延損害金債務(延滞金のようなもの)についても、元金債務と一体のものとして消滅時効の期間がリセットされるでしょうか。
裁判所は、リセットされないと判断しました。
遅延損害金は、元金債務からは独立した債権であって、元金債務と一体のものではないので、別途完成猶予や更新の措置をとる必要があります。